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ライコネンの思い出 byナイジェル・ルーバック

またもやマクラーレン・ホンダが大変だったスパでしたが、当ブログはそれをものともせず我が道を進んでゆきます。今回のテーマはライコネンライコネンといえば、つい先日大逆転でのフェラーリ契約更新を勝ち取ったばかりですが、その報を受けて、マーティン・ウィットマーシュ大好きなあの男、ナイジェル・ルーバック御大が一筆啓上しております。

タイトルやタイミングを見ても、さすがにライコネンについての濃ゆいお話であろうな、などと油断していると、確かにライコネンの話ではあるのだけど、なぜかナチュラルにマーティンの名前が出てきて……というスタイル、個人的には嫌いじゃないwといった感じの記事でしょうか。

原文はこちら。だだしかし、今回自分の英語の実力からすると、本当に難しくてですね、結構挫折しそうになったりしたのですが、それでもなんとか文章にしました、というようなクオリティです。つまりは、まあこれまでの中でも雰囲気訳度ナンバーワン、という感じで、そのあたりどうかご容赦or誤訳指摘をば賜れればと思っております。★つきは相当怪しいところ。

キミ・ライコネン 理解されない変わり者


シリーシーズンはフォーミュラ1の世界にはつきものだ。その伝統はヨブの子供時代から始まり、今なお続いている。ときに主だった契約がいっさい更新の俎上に載らないような年もあるが、しかし、たいていは目ぼしいスターの少なくとも一人にその可能性があるもので、そのときは、そのドライバーの運命の転換点を目撃することになる。行き先が知られれば、すぐさまほかの契約がその空席に滑り込んでしまうからだ。


今回注目を集めたのはほかでもないフェラーリだった。すなわち、キミ・ライコネンセバスチャン・ベッテルのチームメイトとして来年もチームにとどまるのか否か。ボッタス、リカルド、ヒュルケンベルグ、そしてフェルスタッペンの名さえもが、さまざまに飛び交い、そしてマウリツィオ・アリバベーネにより時折ほのめかされる言葉からすると、彼はライコネン放出に傾いているかのよう思われた。


ライコネンは昨年よりもずっと競争力を発揮しており、今年は、惨憺たる出来だったF14Tよりも相性のいいクルマに乗っている彼ではあるが、しかし、それでも決して最高のシーズンを送ったわけではなかった。彼が輝きを放ったレースもあったことは間違いない。とりわけメルセデス勢に割って入ったバーレーンの二位フィニッシュはそうだろう。そしてまた彼のツキがいまいちだったことも否定できないことだ。だがしかし、以下のことも言わなければならない。すなわち、予選での彼は失望させられるものだったし、レースでもベッテルに並べないことが少なくなかったのだ。


しかしそれにもかかわらず、フェラーリは、ライコネンは来年も確実にチームにとどまるとベルギーGPの数日前に発表した。噂されるところによれば、フランク・ウィリアムズがボッタスの契約の買い切りに提示した価格は、マラネロの名門チームにとってでさえも高すぎた。リカルドのレッドブルとの契約も、ありうる限り完璧なまでに隙が無いようであった。そして、2014年シーズンを考えてみれば、なんにせよベッテルがダニエルと再びペアを組むことにどれほど熱心だったかは疑わしく思われるものだ。


フェラーリは、もともと二年前はヒュルケンベルグを雇うことを考えていたのだが、不思議と彼に対しては情熱に乏しいままである。個人的には、もし私がジーン・ハースで、小切手帳つきのドライバー選択権を持っているのなら、彼かロマン・グロージャンとサインしようとするだろう。ひょっとしたらニコは、不可解なことではあるが、トップチームとの契約を手にすることはないのかもしれない。そして、おそらくは彼がポルシェからオファーを受ける日は来るだろう。しかし、今のところは、彼はF1での夢に全てを賭けている。


フェラーリの話ではなかった★*1ライコネンは2016年も良い友人であるベッテルの傍らにいるのは間違いないだろう。「1年だ。オプションはない。」アリバベーネははっきりとスパでほのめかした様であるけれども★*2。多くの人は、彼の目が後継としてフェルスタッペンに向けられていると考えている。


それは必ずしもキミにとって世界の終わりではないのだろう。彼は10月に36歳になり、最近第一子が生まれ父親にもなった。彼は言う。今までかかわったどのチームよりも、今のフェラーリにいることをハッピーに感じていると。そして、それは誰も疑わないだろう。しかし、F1での13年のキャリア(プラスWRCでの2年)で、彼はワールドチャンピオンになったし、人生を複数回繰り返せるほどの財産も築いた。たいていのドライバーより離脱は容易だろうと普通考えるだろう。


あるいはそういうことでもないのかもしれない。無頓着さは、ライコネンの一貫したスタイルであり、それは今までも常にそうだった。それは2001年のザウバー時代からであり、当時マックス・モズレーは、ライコネンの経験不足に懸念を抱き、FIAスーパーライセンスの適格性に疑義を表明していたものだったが、それ以降も彼はまったく変わらなかった。ポディウム上での喜びにせよ、敗北の苛立ちにせよ、キミはほとんど感情を表に出さない。それはまるで、彼はなににも煩わされることの無いかのようだ。質問への短くてそっけない返答は、ジャーナリストにとってはフラストレーションを感じるものかもしれないが、明らかに世界中のファンを楽しませている。ファンにお気に入りのドライバーを尋ねた最近の2つの調査では、一方では1位、もう一方では2位の人気だった。


彼が所属していたチームにおいても――ときおりその忍耐を試すところがあったにもかかわらず――ライコネンは人気のある男だった。ラリーへの挑戦ののち、F1にカムバックしたライコネンは、ロータスで見せたパフォーマンスで大いに感銘を与えたものだが、その当時彼についてマーティン・ウィットマーシュと話したことを思い出す。マーティンはライコネンマクラーレンで5シーズンを共にした人物だ。


「キミには驚かなかったよ。」彼は言った。「私が思うに、おそらくあの最高にとがっていた部分は失われてしまった。彼とは、ほとんど天才と呼べるほどの切れ味があったころに苦楽を共にしていたのだからね。でも彼は今なおきわめて優れた仕事ができるし、ミスも少ない。」


「キミはかなり誤解されやすいヤツなんだってことを言っておかなきゃいけないね。彼はパーティをしたり酒を飲んだりするのが本当に好きなんだけど、実際の彼は、トレーニングに関しては、多くの人が思っているより、ずっと規律正しくこなすし、またとても賢い人間でもある。事実、彼はあの世界でもっとも頭の切れるドライバーの一人だ。彼は多くを語らないし、たいていは不躾な態度をとるので、必ずしもそうは思われないみたいだけどね。あともう一点。私の考えでは、彼はクルマを理解して、それと意思疎通を図ることにかけてはベストのドライバーの一人だ。」


「『コミュニケーション』と『キミ』が同じセンテンスにあるのはちょっと不思議な感じがするかもしれないが、彼は私の大好きなドライバーの一人なんだ。彼はめちゃくちゃ速く走れる能力があるし、とても賢くもある。彼は全てを持っていると言えるだろうね。ただ、彼に無いのは、全てをささげるという気構えかな。」


「ある年のモントリオールにいたときのことを思い出すよ。それは連戦で、翌週はインディアナポリスに向かう予定だったんだ。日曜の夜、彼はラスベガスに飛ぶつもりだった。仲間とパーティをするためにね。キミにこう言ったことを覚えてるよ。『キミ、なんにせよ君は大人だ。だから君がしようとすることを、君はするのだろう。そして我々はそれを止めることはできない。でも、わたしはこの質問を君に投げかけることだけはしたい……。』」


「当時、フロントローに着くことはとても重要なことだっただろう?あのころはそれほど多くのオーバーテイクはなかった。わたしは言ったんだ。『もし六日後のインディアナポリスで、縮められたはずの1000分の5秒差でポールを失うとしたら、そしてそれがモントリオールからタイムゾーンの異なるラスベガスに飛んで、酒を飲んでパーティをちょっとやって、それでまたインディアナポリスに急いで戻ってきたせいだったとしたら、君は自分を思いっきり蹴り飛ばしてやりたくはならないかい?』彼は私に笑みを見せて、うなずいた。口にはしなかったけれども、それは同意したことを示したように思えた。そして1時間後、彼はラスベガスに向かっていたんだ!そのとき彼はチャンピオン争いをしていたのに!」


「キミはロンを心のそこから嫌っていたけれども、わたしはいつもキミとは問題なかったし、09年末にフェラーリから追い出されたときも、再び彼とサインすることも考えた。我々は、彼のマネジメントと交渉していたが、彼らはちょっと……コマーシャルな部分に熱心すぎた。ちょうどそんな折に、ジェンソンが契約できる状況になり、全てが正しい場所に収まった。それで交渉は終わったんだ。」


「キミを見てるとひどくもどかしい感じがするよ。彼は今も変わらぬ頭脳をもっているし、並外れたペースもある。でも彼がそうしたものを大切にしないということが、人をどうしてもイライラさせてしまうんだ。彼は自分のポテンシャルをわかっていなかったし、今もその極限まで追い込んだりすることは無いのだろう。それは本当に残念なことなんだ。とても洞察に満ちていて、乾いたユーモアのセンスがあって……私はアイツが本当に好きなんだよ……。」


ライコネンは今も変わらずファンの人気がある。その理由は、この政治的な正しさばかりが叫ばれる退屈な機運の中で、人々が今よりもおおらかだった時代へと逆行する人物だったからなのだと私は思っている。彼が数年前ジェームス・ハントのヘルメットを着用してモナコに現れたことはたまたまではない。彼は自分は生まれるのが遅すぎた、70年代のF1だったら自分に合っていただろう、と発言している。来年末以降も彼がF1キャリアを続けていたら私は驚くだろうが、しかし、先に述べたように、それは彼を悩ませるものではないのだろうとも思う。表面上のものごとは、大した問題ではないのだ★*3


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マーティン「キミはロンは嫌いだったけど、私とならOKだったZE」*4


☆個人的単語リスト
intrinsic 本来備わっている、固有の、
pivotal 極めて重要な、回転の軸となる、
invariably いつも、
fall into place 正しい場所に収まる、落ち着くべき所に落ち着く
bandy 噂などを言いふらす
to one's taste ~の好みに合った
lousy シラミだらけの、〈話〉劣っている、質の悪い
for all ~にもかかわらず
watertight 水を通さない、〔議論・計画などが〕水も漏らさぬ、すきのない
in light of~ を考慮すると
lukewarm 〔液体が〕生ぬるい、熱のこもっていない、
Carte Blanche カルテ・ブランシュ。Diners Clubのプレミアム・クレジットカード;白紙委任
cheque 小切手
unfathomably 不可解なほどに
firm 〔信念・主義などが〕断固とした、確固たる
enthusiast 熱心な人、熱中している人、ファン
discipline (人)に自制心を持たせ(人)に規則を守らせる
flippant ぶしつけな
demeanor 〔性格が表れる〕振る舞い
back-to-back 引き続いていて
at the end of the day 最終的には、結局のところ
piss 小便する卑俗〉〔人を〕怒らせる
compromise 危険にさらす、〔信用・評判を〕落とす〔名誉・経歴・体面を〕傷つける
dreary〔天候などが〕陰鬱な、物悲しい、〔仕事などが〕退屈な、つまらない
throwback 逆行、先祖返り
savor 味がする、香りがする、匂いがする、~を十分に味わう

*1:Not with Ferrari, though.

*2:although Arrivabene sounded firm at Spa: “One year – no option.すみません、ここ大事なところなんですけど自信ないです。間違ってた場合、ご指摘いただけると幸いです。個人的には、soundでぼやかしておきながら、firmできっぱり言い切るって、どういうニュアンスなのだろうか…という感じです。涙

*3:On the face of it, not much does.

*4:なんていうか、それ自分で言うんかマーティンよ…って感じてしまうのはお国が違うからなんすかねwただまあ確かに、あのコチコチのロンとライコネンでソリが合うとも思えずですがw